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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)663号 判決 1960年9月10日

控訴人(被告) 東住吉税務署長

被控訴人(原告) 吉田安太郎

原審 大阪地方昭和二八年(行)第一〇〇号(例集九巻五号89参照)

主文

原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求(所得金額一四万六、六五四円を超えて一八万二、〇〇〇円を超えない部分にたいする更正処分の取消請求)を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、

被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は、左に記載するほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決五枚目裏六行目の「三八六、六六四円」は一八二、九二七円の、また同八行目の「本年」は本件の各誤記とみとめる)であるから、これを引用する。

(証拠省略)

理由

一、(イ) 被控訴人は、植木類の販売業をするものである。

(ロ) 被控訴人は、控訴人東住吉税務署長にたいし、昭和二七年度の所得として金六万円を確定申告したところ、控訴人は昭和二八年三月二八日右金額を二〇万五〇〇〇円とする旨更正処分をしたので、被控訴人は控訴人にたいし再調査の請求をしたが、控訴人は、これを棄却する旨決定した。そこで被控訴人は、大阪国税局長にたいし審査の請求をしたところ、同局長は、昭和二九年一二月二日控訴人のした再調査の請求棄却の決定及び更正処分の一部を取消し、被控訴人の所得を一八万二〇〇〇円に変更する旨決定した右の各事実は当事者間に争がない。

二、よつて本件唯一の争点である被控訴人の昭和二七年度の所得額について判断する。

(一)  被控訴人は、昭和二七年当時、植木類の販売を業とし、その業態は植木市で盆栽植木等を仕入れ一部は自宅で販売しているが、行商販売を主とし、余暇には庭園の手入等のため日稼にゆき日当を得ていた。

(二)  被控訴人の昭和二七年一月より同年一二月末までの収支のうち、売上を除き雑収入が二万五五〇〇円であり、支出が控訴人主張のごとき内容で仕入金額三八万〇八六四円その他をふくめて合計三八万六六六四円であつた。

これらの事実は、当事者間に争がない。

成立に争のない乙第八号証、原審証人広藤啓補、当審佐古田保の各証言によれば、昭和二七年度における大阪国税局管内における植木商の標準差益率は、同国税局が各税務署から提出された青色申告書を基礎とする統計資料により五五%と認められていることが明かであるが、原審における被控訴本人の供述の一部によれば、被控訴人は終戦後から昭和二六年頃までは盆栽のみを商い、その頃から植木商となつたものであつて、いまだ十分にこの商売に習熟していなかつたこと、しかしながら昭和二六年度において、被控訴人は、所得金額一八万円の確定申告をしていたことが認められるのみならず、成立に争のない乙第六号証の三、第七号証の一ないし三によれば、被控訴人は昭和二七年度の所得に関する前記再調査の請求及び審査請求において、それぞれその仕入金額の三割に相当する植木が枯れたとしながら、売り上げた植木分に関する仕入金額と売上金額との差益率が四一%であることを示しているので、本訴において被控訴人の自認する総仕入金額三八万〇八六四円から被控訴人の自認する枯れ木分の金額四万八八二〇円を差し引いた純売上げ分の仕入金額三三万二〇四四円から前記差益率四一%によつて売上を推計すると、売上金額は五六万二七八六円となり、この売上金額と前記総仕入金額三八万〇八六四円との関係で差益率を割り出してみると、三二%となることが明かである。これらの事実に、前示(一)の当事者間に争のない事実及び前記証人広藤啓補、佐古田保、原審証人西脇正一の各証言ならびに原審における被控訴本人の供述の一部を綜合して考えると、被控訴人の昭和二七年中における植木商による差益率は、少くとも三〇%はあつたものと認めるのが相当である。

右認定に反する原審証人有川正男、竹中留治郎の各証言原審における被控訴本人の供述はたやすく信用しがたく、甲第一号証は、右被控訴本人の供述によるも、昭和二九年本件税金の調査をうけて後に作成したものであること明かであつて、植木の売上について記帳洩れがあることは被控訴人自身の供述するところであるから、そこに記帳された植木の売上金額をそのままに信用することはできない。他に右認定を覆すに足る証拠はない。そして前示(二)のごとく昭和二七年度における被控訴人の仕入金額が三八万〇八六四円であること当事者間に争がないから、仕入金額から売上を推計すれば、左記算式のとおり、五四万四〇九一円となる。

仕入金額380,864÷(1-差益率0.3)=544,091

これに前記雑収入二万五五〇〇円を加えると、昭和二七年中の被控訴人の総収入は、五六万九五九一円となりこれより同年中の前記総支出三八万六六六四円を控除した残額一八万二九二七円が、被控訴人の総所得となること明かである。

そうすると、本件更正処分中審査処分により維持された一八万二〇〇〇円は、正当であつて、右更正処分(一八万二〇〇〇円を超えない部分のうち)中一四万六六五四円を超える部分を取消した原判決は失当であるから、原判決のこの部分を取消し、所得金額一四万六六五四円を超えて一八万二〇〇〇円を超えない部分に対する被控訴人の請求を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)

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